作:深井邦彦
その日は25年前に家を出た母親の葬式の日だった。
皆、母の死をどう感じればよいのか分からず、自宅に戻った。
少し重い雰囲気が自宅を包んでいる中、珠子だけは笑っていた。
ただ、家族はそれを不思議がる事はなかった。
珠子は変わっている人間だと認識されている。
例えば、マカダミアナッツチョコレートを買ったら一日で全部食べてしまうし、ファミレスのドリンクバーでは飲み物をとって席に着くまでに口を付けてしまうし、回転寿司では一皿取っているのに目の前に好物が流れてくるともう一皿取ってしまう。何も食べ物の話だけではない。風呂から上がったら体をちゃんと拭かないし歯磨きも申し訳程度にしか磨かない。
珠子は生き方その物が不器用なだけなのだが、他者から見れば珠子は変わった奴だった。
そう思われている事を珠子は分かっていた。
それでも珠子は笑っていた。バカにされてもいつだって楽しそうに人生を生きている様だった。
葬式の帰り、旦那と二人での帰路。バス停で二人バスを待っていた。後ろには恋人にフラれたばかりの男が一人、同じくバスを待っていた。
そこで、いつもはあまり自分の事を話さない珠子が珍しく自分の思ってる事を話し始めた。
珠子は言う、『私はSEXがしたい』
旦那は珠子の異変には気が付かずに、またおかしな事を言い始めたと、珠子を諭す。
珠子は笑いながらも少し興奮していた。
その珠子の姿を見ていた後ろに並んでいた男もまた自分と重ね興奮していた。
旦那は珠子を諭し終わると、中々来ないバスに苛立ちタクシーを呼びに大通りに向かった。
一人になった珠子と男は共感したかった、
男は珠子に声掛け、そして珠子を連れ去った
珠子が居なくなった 上演台本
新宿シアタートップスにて上演。
作・演出 深井邦彦